漫画原作者 猪原賽BLOG

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オオシマ フランス便り『ツール・ド・外道』第05道

第05道「バンドデシネ作家のサイン会の様子」

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ちわっす。今回はデシネ作家と地域のかかわり合いって感じです。
写真は最近ランスであった小さいお祭りの風景。お祭りの参加者、ファンの人達とデシネ作家さんたちが昼食前、食前酒で歓談している様子です。


デシネ作家さんはどこかでイベントがある際、呼ばれる事が多々あります。
個人で呼ばれる事もあれば、アトリエ単位で呼ばれる事もあります。
メインの出し物としてで呼ばれる事もあれば
言葉は悪いですがお祭りの際の客寄せパンダ的に呼ばれる事もあります(笑。
そこで何をするかと言うと、サインをするのです。
サインと言っても必ず絵付きの丁寧なサインです。人によっては色まで塗ります。
この国は実に何らかのイベントが多く、普通に仕事してるだけで二~三ヶ月に一度くらいはフランスのどこかからお呼びがかかります。
漫画家に比べて比較的時間が自由にとれるデシネ作家だから可能な風習ですが、
このイベントに呼ばれるのが実に楽しいのです。

なにがいいかと言うとまず、単純に気分転換になる事。家に引きこもって出かける所と言えばアトリエかスーパー、タバコ屋さん。そんな毎日ですから単純に気分転換は嬉しいです。
そして、ファンの人と直接ふれあえる機会がこんなに頻繁にあると言う事。
今はネットでツイッターだフェイスブックだと、作家との距離が縮まった感がありますが、やはり直接会って自分の作品を褒められるのはその何倍もうれしいですし、その後の作品へのエネルギーにもなります。
さらには、いろんな地方の作家とコミニュケーションがとれる事。
日本にいたときは私は漫画家の友人というと、両手で数えられる程しかいませんでした。
なにせ出会う機会がないのです。忘年会や新年会ででかい出版社のパーティに行っても、漫画家さんは仲のいい漫画家さんと話をするばかりで新参者はよほどでないとその中に入れません。
それがこちらではこういうイベントのおかげで、他のデシネ作家さんとお話する機会が大変増えました。人と人との繋がりが増えるということはそれだけ可能性が拡がる、仕事のチャンスが増えると言う事。
編集者を紹介してもらったり、シナリオライターの人と知り合えばその人と次回作をかく事があるかもしれません。
実に有益なのです。
加えて、作家が地元と密着できると言う事。フランスはオシャレな国、アートな国として有名ですが、住んでみるとちょっとちがうかな、と思います。
日本よりもアートの世界がお高くとまったある種近寄りがたい世界ではなく、身近な文化の一つなのです。
だからそれを気軽に身に纏い、気軽に家に飾るといった感じです。
その距離の近さが、こういったイベントなどでのちいさな交流から生まれていると感じるのです。
頻繁に行われるイベントのおかげで一般の方々も頻繁に芸術に触れ、
それに対する理解や興味が深まっていくのです。
様々なイベントで様々な分野の芸術が紹介され、
それを通していろいろな文化に興味を持つ、そんな感じです。
おかげでバンドデシネのファンなら、地元にどんな作家が住んでいるか知っている。
どんなアトリエがあって、イベントがあって、そこに行けば好きな作家に会える、そんな事を知っているのです。
それは作家側からしてもとても嬉しい事だと思うのです。

例えば、イベントに参加しているとこんな事があります。
二週間前の土日に私急にさそわれて、地元のちょっとしたお祭りに参加する事になりました。

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ちょっと変わったイベントで、フラメンコの旅芸人一座とその文化のような体裁。
そこでこのテントの中で作家が机を並べてサインをするというお祭りでした。
子供の頃よく見みたサーカスのようなテントです。ピエロのしんちゃんがドバ!ドバ!です。
昼はデシネ作家さん達によるサイン会、夜はフラメンコとジプシーミュージックやちょっとした舞台。
こんな感じでフラメンコに興味がある人もバンドデシネに触れるし、もちろんその逆も。
参加者も作家もいろんな文化や芸術に触れるわけです。

今回がもう一つちょっと変わっていたのは私が前日の夜に急に誘われたイベントだった、と言う事。
こういったイベントでは本屋さんがイベントに参加する作家さんの本を持ってきて、その場に本屋の出店を作り、客がそこで本を買ってサインをしてもらう、というスタイルが基本です。
前日の夜に急に決まった参加でしたから、本屋さんが私の本を持ってきていません。
「じゃあすまないが、君はお絵描き教室を担当してくれ」
とんでもねえムチャ振りです。お絵描き教室って言うのは言ってみれば託児所みたいな側面がつよいのです。
親御さんが好きな作家さんの列に並んでる間、ヒマな子供を預かって漫画のかきかたを教えるのです。
オレフランス語カタコトだってば!あと、大人って会話の流れでわからない単語があっても大体予想できるけど、
子供は違う。
奴らいきなり後ろから刺してくるくらいの勢いで、どこからどんな言葉発するか予想がつかん。
こりゃどうすんべかなー、と悩みながらお絵描き教室用に配られた紙になんとなくラクガキをしていると、
子供達が熱心にそれを覗き込んできます。
「コレだ!」とひらめきましたよ。とにかく自分はラクガキをする。
子供達はそれをお手本に模写したり、
そこから自由に「もうそれキミのオリジナルだよ」ってくらいアレンジ加えた絵に発展したり。
これなら会話不全でもなんとか乗り切れます。

都合4~5枚のラクガキをしたでしょうか、一枚描けば充分なのになんでそんなに描いたかと言えば、
描いた端からなくなってしまうのです。
ラクガキを気に入った子供がいつの間にか持って行ってしまうのです。
それでもラクガキなんかを気に入って、家にもって帰っちゃうなら嬉しいもんです。
最終的にはニコニコしながらラクガキしてました。

そしてその日のイベントが終わろうかと言う時間に、子連れのお母さんがやってきました。
やっぱり子供を預けて誰かのサインに並ぶようです。
女の子は私主催のお絵描き教室改めラクガキ教室で絵を描き始めました。
なんだか鼻歌を歌いながらニコニコとお姫様の絵を描いています。
オレ、鼻歌歌いながら絵描く子好き。楽しんで描いてるって感じがブリブリ伝わってきます。
絵は苦しみながら描くんじゃない、楽しみながら描くもんだ、そんな初心を思い出させてくれます。
あんまり楽しそうなのでお手本になれば、とまたこっちもお姫様のラクガキをはじめました。
そうこうしているうちにお母さんも帰ってきました。

終わる時間だし、その前にアトリエのみんなどうしてるか一回りしてこようとラクガキ教室のブースをでて、
テントの中をゆっくり一回りし、また自分のブースに戻って来るとまだそこにお母さんと女の子が待ってました。
「あのお姫様の絵ちょーだい?」
他の子は黙ってもって帰っちゃったのに、それでも充分嬉しかったのに、わざわざ一言いう為に待っていたようです。
なんだか嬉しくなって、お姫様の横にサインを書いてその子にあげました。
女の子は本当に嬉しかったらしく、慣用句ではなく本当にその場を走り回って喜んでくれました。
「あの子机の前に飾ると思うわ、ありがとね」
とお母さん。
「いやいやこっちこそありがとうです。なんだか元気がでました」
ほこほこにやにやしながら家路についたのです。

こういう経験ってエネルギーになると思うんですよ。
いっちまえばどうって事ないことかもしれないけど、少なくとも
「ようし、これからも頑張るぞ!」って思えます。

次の日は、本屋さんが私の本を持ってきて下さいました。
作家ブースでサインを描いていると、なんだかテキサス風の格好をしたおっちゃんがえらく
絵を気に入ってくれたらしく、バシャバシャと写真をとってらっしゃいました。
最後には2人並んで記念写真をとらされました。
「おっちゃんがおっちゃんの写真とってどーすんねん(笑」と思いました。

いろんな経験が出来て面白いです。イベントは。
ほんではまた。

 

オオシマヒロユキ

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