漫画原作者 猪原賽BLOG

「学園ノイズ」「悪徒」「放課後カタストロフィ」の原作者/ブロガーが告知したり漫画の作り方、関連ニュースをお伝えします

オオシマ フランス便り『ツール・ド・外道』第07道

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第07道「番外編・『学園ノイズ』のこと」

ども。
なんかですね、学園ノイズがJコミにアップされたわけですよ。

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いやあ。
面白くて二回読んじゃった(笑。
当時私は自分のかいた物が恥ずかしくて自分で読み返せない病をわずらっておりまして。
その時の自分は「10年後20年後読み返して恥ずかしくない作品をかこう!」と思っていたものですので、とりあえず10年後はクリアできました(笑。

というわけで、今回はいつか話したいとずっと思っていた学園ノイズ誕生秘話でもひとつ。
軽いネタバレはあるものの絶望的なネタバレは入れていないので、まだ読んで無い方もお気軽にどうぞ。
フランス関係なくてごめんなさい(笑。


皆様はかつて、「バイオスフィア2」という計画というか実験があったのをご存知でしょうか。
アメリカの砂漠にでっかいドームを作り、その中に様々な植物をぶちこみ、
さらに何人だかの科学者をぶち込み、外界と遮断させ、ドームの中で自給自足の生活を行わせる
というある種正気を疑うような実験です(笑。
なぜ1がないのに2なのかというと、モヤモヤさまぁ~ず2的な意味では無く、
1は地球そのものを差すんだとか。つまり小さい地球をもう一個作ってみた、と言う事です。

私は中学生か高校生の頃当時何かの本でかTVのニュースかNHKの特集か忘れましたが、この実験の事を知り、えらく心に残ったのです。
世界の中にもう一つの閉じられた世界を構築し、そこで何が起こるかをシミュレーションするというある種薄気味悪い実験。
薄ら寒いときめきを感じつつ、この頃はもう一番の夢が漫画家でしたからこれをいつか漫画でかいてみたい、と思ったのです。

そして月日は流れ、なんとか憧れの漫画家となり、ある日画材を池袋東急ハンズに買いに行く途中の事でした。
登りのエスカレーターで突然ひらめいたのが主人公嘩形弾です。
嫌いな物をぶちこわしてまわる学生服を着た元気なヤツです(笑。
いてもたってもいられなくなり、そのまま家に戻ってすぐさま猪原君と相談。
「この主人公でバイオスフィア2をぶっ壊す話をやりたいんだよ!」と。
ここから着想が始まった訳です。
もちろん買い物は忘れてて後日買い直しに出かけましたよ?

テーマを設定し、そこからいろんな物を参考にしました。
『男組』『男大空』『要塞学園』『熱笑!!花沢高校』『なんと孫六』『ガクエン退屈男』『極道兵器』『愛と誠』『夕焼け番長』『未来世紀ブラジル』『12モンキース』『大脱走』『時計仕掛けのオレンジ』おまけに『時計仕掛けのりんご』、
好きなパンクロックの洋楽邦楽問わず歌詞やメロディーから連想する事、etc。
学園をバイオスフィア2にする訳ですから、それらからさらに2人で想像を膨らませ
町と言うよりも、国として機能しているような学園を作ったのです。
目標としたのは他のキャラを配置すれば他の話がいくらでも作れるような世界。
ゼルダやマリオのような、3Dスティックでぐりぐり冒険したくなるような世界。
それでいて日本教を感じさせる、法だけでなく不文律、風習、習慣等、気づかぬうちに不自由を感じさせる世界。
どれだけ多くの作品を参考にしようと、借り物だけの世界ではキャラクターは暴れてくれません。
彼らが気持ちよく暴れられる世界を作るために様々なヒントをもとに頭を悩ませ、時間を掛けて一生懸命「共生学園」を生み出して行ったのです。
当時ディストピアなんて言葉は一般性が無く、我々も知りませんでした。
そう言う概念が2人の頭にあれば、もう少し楽に作れていたかもしれません。
ただ2人の好きな物を組みあわせ練り上げてより魅力的な閉じられた世界を作るといった興奮は得られなかったでしょう。
おそらく最初から「ディストピアを作ろう」だと共生学園は誕生しなかった。
物を作るよろこびがあるからこそ、情熱を持ってキャラクターを作り、世界を構築できたのです。
事実作中では「テーマが鈍る」「ページが足りない」等の理由で語られなかったような設定もいっぱいあったりするのです(笑。
(これは語っておいた方がよかったな、という設定も一つ。
 IDカード、IDリストの上に生徒会役員の腕章があります。
 生徒会の役員付きだけが学園のトップシークレット部分に入れる、
 嘩形君と草壁君が堤君の腕章で地下道から地下住人の案内なしに出られたのはそのため。
 トップシークレット以上の暗部にはさらに学園長のはんこが必要。
 なので生徒会役員の面々はIDリストをしていないのだが、
 第一次ノイズの面々と密会を繰り返していた志藤君だけは
 ペナルティとして腕章から機能を除き、IDリストに格下げされていた
(覚悟をお見せなさいと志藤君の顔に傷を付けさせたのは鬼塚さんのドS暴走。)云々。
 わかりづらかったですよね(笑。ゴメンナサイ。)

この頃にはほぼメインキャラは出そろっていました。
嘩形君を中心に主人公陣営と生徒会陣営。
それぞれストーリーの中で役割を考え、必要な場所に必要なキャラを、というだけでもう半分以上のキャラが出来ていたのです。
それぞれのキャラに2人のそれぞれの想いを乗せました。
よく漫画のかきかた的な本を読むと、「身近な友人を参考にしよう」なんて書いてあったりしますが、アレ、あんまり納得できません(笑。
自分の本物の想いを乗っけてこそ、キャラクターから本当の熱い行動や熱い言葉が生まれるのだと思います。
だから嘩形君から堤君、はては能登君までほぼ全てのキャラクターに自分らの想い乗ってます。
乗ってないのは加納君と鬼塚さんくらいかな(笑。
その2人は、主人公達の想いと正反対のキャラって位置付けだから、逆の意味でものすごく想いがつまってますが(笑。

余談ですが、作品を作る時にお手本にしている言葉があります。
手元に今ないので正確に思い出せませんが、細野不二彦先生の『あどりぶシネ倶楽部
という漫画に、
「意味も無く生み出されて本当に輝ける場所が与えられないキャラクターなんて可哀想な事だと思わない?」
といったニュアンスのセリフが出てきます。
これは自分が漫画をかく時にいつも気にかけている言葉です。
作者としてキャラクターを生み出す以上、そのキャラクターにはきちんと輝ける場を与るのが、最低限作者として必要なことかな、と。
さらに拡大解釈して、世界観もキャラの一つとして考え、意味の無い世界観ではなく、きちんと作品にそった世界観を作らなければ、と。
ただよそから引っ張ってきてもそれはよその為に作られたキャラや世界観です。
輝ける場所が与えられた訳ではありません。
いたずらに連れてこられたキャラや世界観なんて前出の言葉通り可哀想な物です。
いろいろなものを参考にしながらも、自分らはそこだけは守って、自分たちなりのキャラクターや世界観を無い頭をふりしぼって構築したつもりです。
だって能登君ですら輝いてんですから(笑。

あどりぶシネ倶楽部 (ビッグコミックス)

あどりぶシネ倶楽部 (ビッグコミックス)

 

 
もういっちょ余談ですが、細野不二彦先生と言えば、猪原君が大学卒業時、漫画家を目指すか就職するかを悩んでいた時に、私は彼にやはり先生の『BLOW UP!』を貸しました。
内容を知っている人はわかると思いますが、えらく残酷な事をしたもんだと今思っています(笑。
お会いした事はありませんが、この作品に限らず多大な影響を受けています。

Blow up! (小学館文庫)

Blow up! (小学館文庫)

 

 
当時今で言う「漫画読み」のはしりのような方々は学園ノイズを紹介する際にいつも
「番長マンガ」「ヤンキーマンガ」等の呼び方をされていましたが、これが本当に自分らは疑問でした。
確かに連載前に設定を練っていた時点で参考にした作品にはそう呼ばれる漫画もありますし、
そのジャンル自体は大好きです。
ですが読んでもらえればわかるんですが、この学園ノイズがどうしたらビーバップハイスクールとか工業哀歌バレーボーイズと同じカテゴリに見えるんだろう?
番長もいわゆるなヤンキーもモブシーンを除いて1人もでてないんですけどね。
今回猪原君によればそういった言葉をほとんど見かけない、んだそうで。
それが自分はとてもありがたいです。
変な色眼鏡で斜に構えて読まれることより、素直な感想頂けるのは本当に嬉しい。
ありがとうございます。

そういうわけで余談たくさん学園ノイズ誕生秘話はおしまい。
キャラクターとそれぞれのモデル編もやりたいけど、
ソレやりだすとまた同じ以上の文面になっちゃいそうなので涙をのんで割愛。
次回はまた通常営業に戻る…と思いますけど(笑。
じゃまた。

オオシマヒロユキ

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