漫画原作者 猪原賽BLOG

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「持ち込み」は怖くない!漫画原作者(元マンガ家)の“本当にあった編集者のピンとキリ”エピソード

漫画原作者の猪原賽です、こんにちは。昨日「マンガ編集者」の話をしたついでに、私自身の体験として実在するマンガ編集者について教えておこうかなと思います。

実体験を伝えながらも、その本意は「持ち込み」は怖いと思っているマンガ家志望者に、怖がることなく何度でもトライしろ、ということです。

iharadaisuke.hatenablog.com

<前回の話題はこちらです>

 1・本当にあったマンガ編集者のピンとキリ

まずは、15年の間多くの出版社、雑誌を渡り歩いた、私自身が出会った編集者の話をします。

1-1:こんな編集者が最悪だった

注意!

超DISるので、まず最初に断っておきます。PCからこのブログを見ている人は、右側に私の過去作が並んでいますが、今回お話するダメ編集が担当した作品はそこにありません。

私は漫画原作者ですが、『仮面ライダークウガ』の「構成」としてスタッフに入っているように、時々匿名で、場合によっては完全に名前と存在を伏せて仕事をすることがあります。そんなナイショの仕事の一環で出会った、こいつは最悪だ! と思った編集者の話をします。

端的に言えば、過去、当ブログのエントリーでバズった案件のひとつで話題となった編集者です。

こんな「上から目線」の編集者がいた!

iharadaisuke.hatenablog.com

あるいは、Twitterで言及した編集者です。

マンガを過去読んで来なかったのに、なぜかマンガの編集者になり、従来のマンガのコマ運びと違う順番でマンガを読む――という、子供の頃からマンガバカだった私からすれば「?」と思う担当編集者。
しかし、そんな彼に対する私のDISりは、その“非常識”そのものだけなら、まだなんとか許せた。が、私が彼を完全に編集者として信用しなくなったのは、それが原因ではなく、その言葉を発した態度によるものです。

彼はこう言った。「(担当する作家に)Bのコマ運びで描かせる」と。

「描かせる」? わかってないくせに、何だその上から目線。

謎の“敏腕編集者”

 マンガを読まず過ごして来て、なぜかマンガ編集者になっている彼は、それでも不思議と、ヒット作をいくつも抱える“敏腕編集者”でした。そのことが自分でも誇らしいようで、私と仕事を始めるにあたって、

「猪原さん、私が担当すれば、必ずアンケートも売上も上位になります。大船に乗ったつもりでいてください!」

と発言。しかしその後、「コマ運び」のおかしさが露見し、マンガを読んだことないという話を聞いて「?」となり、打ち合わせもほとんどする機会もないまま連載は進む。

「上から」の態度は最初からずっと変わらず、私が送ったものに一方的に様々な「直せ」の指示がメールで送られて来るだけ。

当然、マンガ力が非力な編集者ですから、その指示はトンチンカンなわけですよ。でも、そこを作家のほうから「こうですよ、こういう意図ですよ、そういうものですよ」と相談する「打ち合わせ」を所望しても、忙しいの一点張りで打ち合わせ拒否。

私は、なぜこの編集者がヒット作を抱える“敏腕編集者”なのか、まったく意味がわからなかった。事実、その連載はヒットする気配もなく、人気が低迷。
そりゃそうだよね、全然マンガ作りが出来てないもの。打ち合わせもほとんどしないから意図がわからんし……そんな状況の連載の中盤になり、やっと彼が"敏腕編集者”である理由がわかったのです。

マンガ家軽視で自分の“成績”優先

連載の中盤頃、突然彼から電話がかかって来て、「編集部に打ち合わせに来て下さい」と。ああ、やっと仕事らしい仕事が出来るとわざわざ出向いた私の目の前には、彼ともう一人、入ったばかりの新人編集者がいました。

「次回から、担当が代わります。よろしくお願いします」

はい?

と私が答える間もなく、「『○○(その雑誌でアンケート上位の作品名)』の打ち合わせがあるんで、じゃ、あとはよろしく!」と彼は新人編集者を紹介だけして、サッと消えた。
まごつく俺。そして失笑する新担当。
彼が“敏腕”なカラクリは、非常にカンタンなことだったのです。

多くの作品を担当をし、人気の出ない作品はどんどん後輩に投げてしまう。結果、彼の手には彼の力量関係なく、勝手に人気が出た作品が抱え込まれている。

彼の担当する作品は、あくまで彼自身の「ヒット作を抱えている」状況を作るためのコマに過ぎず、売れなかった作品・作家はどんどん後輩に丸投げし、自分の経歴に無かったことにする。

「自分が担当すれば、アンケート・売上上位になる」のではなく、「結果を見て、不人気作品は担当を外れる」というカラクリだったのです。

1-2:こんな編集者が最高だった

一方、幸いなことに、私がこれまで作って来たマンガは、ほとんどの担当編集者が良い編集さんでしたね。

“ダメ”な案を意見する編集者

……と、見出しだけ見るとダメ編集のようですが、違うんです。

私が書いたシナリオ第1稿に、意見をする。良い案を出す。より良い作品になるようにお手伝いする。そういうスタンスで作品を見てくれる編集さんがいました。
しかし、そう意見しながらも……

「猪原さん、編集者の意見や、作った話なんて面白くないんです。面白いこと言えたら、提案出来たら、それはもう“作家”です。編集者なんて、マンガ家になれなかったのにマンガ業界にしがみついてる、こじれたワナビーですよ。そんな奴が言う意見(作った話)が面白いわけがない。だから、私の意見を参考にしつつ、しかし私の案を飛び越えた、あなたがもっと面白いと思う第2稿をお待ちしています」

こう言われたら、よりをかけて手直しするテンションが上がるというものです。

編集者は時として、作家の独りよがりになりがちな作品の、最初の読者として、様々な“改良案”を出して来ます。
あれ直せ、これ直せと上から言うひともいれば、「こうしたらもっと良くなるのでは?」と、言い方に幅あれど、書き直し、リテイク、やり直し。何度も続くリテイク地獄に、作家は心が折られがち。

しかし、上のような言い方で煽る編集者は、くやしいけれど、やる気が出るじゃないですかw

「良い例」はボリューム少ないけれど…w

「最悪だった編集者」に比べ、実例を多く語れない「最高だった編集者」。でもそれは、私が触れて来た編集者のほとんどが、スタンスとして上のような「自分の意見は最良ではない」という前置きをしつつ、しかし的確な意見を出して来る方ばかりです。

「最高!/ピンと来ない」と感覚で企画やシナリオやマンガに答える編集さんもいます。ただし、そうした“感情”を伝えた上で、どこが良かった、ここが悪かったと、きちんとリストアップし意見をくれるので、どっちに転んでも参考になるレスポンスをくれるので、私は大いに信用し、今も担当についてもらっています。

逆に、まったく感情のブレがなく、褒めることもけなすこともしないで、淡々と意見だけ言う編集者もいます。なのに、他誌、他作品は悔しそうに褒めちぎる。
たまには俺のマンガも褒めろよ! と怒ると、「だって、他の作品は自分の担当じゃないじゃないですか。その時の僕はただのマンガ読みですよ。猪原さんや他の担当作の前では、僕はプロの編集で担当作家は並列です。どれかを褒めたり、けなしたり、上下は作れません」
その一方で、「実は面白いと思ったら、セリフの写植(フォントや級数)やアオリ考えてる時、ルンルンなんですよ。そんな様子猪原さんに見せませんけどね」とツンデレな編集者もいる。

作家の人となりから入る編集さんもいます。
急に打ち合わせに呼ばれて行ったら、作品に関してはまったく議題にのぼらず、「猪原さんが子供の頃、好きだったマンガや映画を教えてください」
その意図はと問うと、「猪原さんも俺も充分オッサンです。でも猪原さんも俺も『少年マンガ』作ってるんですよ。どうしてもアタマがオッサンになってしまって、読者とセンスが乖離しているかもしれない。だから今夜は、話については二の次で、我々が子供の頃好きだったものを思い出して、そのエッセンスを、これから作る現代のマンガにフィードバック出来ないかなと」

私はこうした体験を語りながら、編集者はマンガ家を敬えと言いたいわけではなく、しかしきちんと、フリーランスである作家の立場を理解し、雑誌に掲載される前の、マンガの“最初の読者”として、良い点、悪い点をハッキリ伝えることが出来る編集者であって欲しい。そして私の担当の多くは、そういう方達だった――ということをお伝えするのです。

そろそろヒット作のひとつでも作って、皆さんに報いたいと思うのですがw

2・持ち込みは怖くない

2-1:一度の持ち込みで心が折られる必要はない

というわけで、編集者という人種は、ピンからキリまでどころか、色んな考え方や持論のある職業なのです。

一度持ち込みに行って、非常に凹んだので、以来持ち込みに行っていない……という例は多く聞かれます。
が、あなたが持ち込みに行った時、応対する編集者は、数多くいる編集者の一人でしかない。その人に良いこと悪いこと、何を言われようと、あなたの持ち込み原稿を見る角度は、編集者によって違う。

人間が合う、合わないもあるでしょう。好きな作品の傾向が違うこともあるでしょう。だから、あなたの持ち込み原稿に何を言われようと、同じ編集部の他の編集者が見て、同じことを言われることはない。編集部が違えばまた違う意見が出てくるでしょう。

自分の原稿に、コイツは何を言うのだろう? 持ち込みまで来た自分の覚悟に、どう応えるのだろう。その調査次第で、この編集者は信用に足る人物かどうか、あなた自身が逆に判断する。そんなスタンスで持ち込みに行けばいいんじゃないかな。

ね? 怖くないでしょう?

2-2:猪原賽の持ち込みの例

最後に、私がオオシマヒロユキとコンビ作家として、とある編集部に持ち込みに行った時の話をします。

 先日、Kindle版限定で出版した『Revolver-リボルバー-』(250円)。これは私とオオシマヒロユキが、初めて話と絵を合作し、コンビマンガ家としてデビューしようと画策したマンガです。

これを携え、私とオオシマは、某編集部に持ち込みに行きました。

出て来た編集者は、私達の原稿はサラッと眺める程度でほとんど読むことなく、過去彼が担当し、大成したマンガ家のエピソードを(聞かれてもいないのに)披露。

へー、すごいですね、そんな立派な編集さんにマンガを見てもらえるなんて光栄だー(棒読み)と苦笑いの私達に、その編集さんは言いました。

「あと3年くらいマンガの勉強すれば、ウチでデビュー出来ると思うよ」

オオシマヒロユキ+猪原大介(現・猪原賽)というコンビマンガ家は、その言葉を聞いて編集部を出、即次の持ち込みのアポ。その後一年足らずで、他誌で、デビューしましたとさ。


フィーリングの合う編集者を求めて、色んな編集部に行ってみるといいと思います。
幸い、最近はコミティア等のイベントで、生原稿のみならず同人誌でも持ち込みを受け付ける各誌の出張編集部も盛況ですしね。

2-3:私の“電子書籍”各種販売中です  

Revolver-リボルバー-

Revolver-リボルバー-

 

 いろんな編集部に携えて行った、15年以上前の私の持ち込み用読み切りマンガです。
週刊少年ジャンプでホップ☆ステップ賞、手塚賞の受賞経験のあるオオシマヒロユキが、私と合作作家という形で再デビューを図った読み切り作品。
若いですw

漫画原作のゲンバ (上)

漫画原作のゲンバ (上)

 
漫画原作のゲンバ (下)

漫画原作のゲンバ (下)

 

こちらは、私・猪原賽のマンガ原作シナリオ集。
上巻は107円、下巻は215円です。「猪原式シナリオ」で書かれたマンガ原作と、それに対する横島一さんのネーム作例が収録されています。
「kobo」「iBooks」等、電子書籍サービス各社でも発売中です。