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漫画原作者 猪原賽BLOG

「学園ノイズ」「悪徒」「放課後カタストロフィ」の原作者/ブロガーが告知したり漫画の作り方、関連ニュースをお伝えします

浅野いにお先生「ふんわり男」のWEBマンガらしい革新性と、“縦スクロールマンガ”と親和性の高いマンガ構成の話

マンガ マン語り! 業界 はてブ

f:id:iharadaisuke:20160322132809j:plain(画像は「ふんわり妄想シアター」よりキャプチャ・加工)

漫画原作者の猪原賽(@iharadaisuke)です。浅野いにお先生がサントリーの「ふんわり鏡月」の特設サイトに掲載したウェブマンガが話題になっていますね。読む回数によってマンガが変わる――

 読む回数によって“変わる”マンガ

 「ふんわり鏡月」特設サイトのマンガが話題

togetter.com

 私がはてなブックマークをしたのは、Togetterのまとめでした。該当のサイトはサントリーのふんわり鏡月特設サイト「ふんわり妄想マンガシアター」。

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(画像は「ふんわり妄想シアター」よりキャプチャ)

funwari.com

浅野いにお先生はじめ、西島大介先生、今日マチ子先生、桜沢エリカ先生のマンガが公開されているほか、五月女ケイ子先生のマンガの公開が予定されているようです。
この中で「見る回数によってマンガが変わる」演出が組み込まれているのが、浅野いにお先生の作品。それが話題となり、Togetterに反応がまとめられていたようです。*1

浅野いにお・作「ふんわり男」

f:id:iharadaisuke:20160322132809j:plain(画像は「ふんわり妄想シアター」よりキャプチャ・加工)

浅野いにお先生の「ふんわり男」は、

  • 基本Ver.1
  • 女性キャラのモノローグ追加Ver.2
  • 男性キャラのモノローグ追加Ver.3

の3パターンあり、全て読むともう一度、基本Ver.を読んで再確認したくなる内容と演出。
えっ、そんなの描いてあったっけ!? と驚き、ついつい何度も読み返したくなるマンガでした。

Togetterの反応にもあるとおり、Ver.2、3では、モノローグ過多で本来読者の想像に任せるべきキャラの心情がすべて書き込まれてしまっています。ここまで文字で読ませてわからせるのは本来マンガでは無粋とされますが、これはあくまで3つあるVer.を全て読んでもらいたい、WEBコミックならではのシステムが仕込まれているわけで。
「そう来たか!」「そうだったのか!」という驚きと共に、読み返すたびにキャラクターの性格・生活が深掘りされていく様は、単純に縦スクロール対応したWEBマンガとしてだけでなく、WEB特化のマンガシステムを楽しむためのマンガとして、かなり秀逸。
WEBマンガはすべてこうなるべき! とまでは言いませんが、こんな演出が組み込まれるなら、単純にコマを縦に並べるだけで「WEBマンガでござーい」というのも、ちょっともったいない話に思えて来ました。

でも、逆にスマホで読む縦スクロールマンガは、これまでの紙の誌面で活躍するマンガ家さんも、実は挑戦がしやすいのでは? とも思いましたね。

“縦スクロール”と親和性の高いマンガ・低いマンガ

縦スクロールにしやすい構成のマンガ

今回の浅野いにお先生の「ふんわり男」は、スマホで読む“縦スクロール”マンガとしてもかなり見やすい構成になっていますよね。もう一度、スマホに表示される範囲をキャプチャさせていただきます。

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(画像は「ふんわり妄想シアター」よりキャプチャ・加工)

 上から順番に、とてもスッキリと見やすい構成になっていることがわかります。

f:id:iharadaisuke:20160322171834j:plain例として雑誌・コミックス前提のコマ構成を考えた場合、こうしたシンプルな構成であれば「ふんわり男」同様、横ではなく縦に縦に繋げるだけでスマホ向けの縦スクロールマンガになります。

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こうですね。見やすいですよね。でも……

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こういった構成だった場合はどうでしょう。

縦スクロールにしづらいマンガ構成

上の画像のような見開き構成の各ページを、縦に繋げるとこうなります。

f:id:iharadaisuke:20160322172339j:plain……おわかりでしょうか。

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視点誘導が画面内を行ったり来たりするうえに、(図・左)
見開き前提の断ち切りや、ページのノド(見開きの内側)の余白が、けっこう視線の邪魔になりますよね。(図・右)

どっちが良い、という話ではない

もちろん、浅野いにお先生の「ふんわり男」は、もともとWEBで発表するために描かれたマンガ。紙媒体に落とし込むということは逆に演出上できないわけですから、先生ご自身が見やすいような構成でマンガを描いたということは当たり前。

それに見開き前提の雑誌やコミックスの構成と、縦スクロールのスマホ特化型のマンガの構成、どちらが良い、という話ではありません。それぞれのメディアに、その形だからこそ良いとされる構成があります。

ただ、歴史的に、見開き構成のマンガのほうが歴史が古く、スマホ型縦スクロールは、新しい。その新しい縦スクロールに違和感を持つマンガ家さんも多く、読むのも描くのも無理、という声を業界では聞きます。(マンガ家さんだけでなく、編集者さんからも。)

ですが、浅野いにお先生の「ふんわり男」のように、新しい演出システムがマンガというメディアを革新するかもしれませんし、これまで活躍するマンガ家さんのマンガでも、その先生の構成“癖”によっては、縦スクロールマンガへの再構成は難しくないのでは、なんても思いますね。つまり……

今回俺が何を言いたかったかと言うと…

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こういう感じのシンプルな構成でお馴染みのマンガを、縦スクロールで再構成してみるという手を、出版社・編集部は取ってみてもいいんじゃないかなと思うんですが、いかがでしょう。例えば川原正敏先生とか、もりやまつる先生とか。縦スクロールでもすんなり読める、昔気質のマンガ家さんのマンガになると思うんだよなー。

さらにそこから、縦スクロールマンガを提唱し実践しているcomicoあたりが、単にマンガを縦に構成するだけでない何か新しい“演出”をシステムに加えてくれば、またマンガも次の未来へ進むんじゃないかとも思います。

*1:その他に西島大介先生の作品は「音楽」を演出として使用しています。