漫画原作者 猪原賽BLOG

「学園ノイズ」「悪徒」「放課後カタストロフィ」の原作者/ブロガーが告知したり漫画の作り方、関連ニュースをお伝えします

「漫画原作者」は一体「何」を書いているのか

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前回、「どうしたら漫画原作者になれるのか」という問いに答えた「漫画原作者・猪原賽のマン語り!」。
その答えは至って明快。「小説家になれ」「マンガ家になれ」つまり、遠回りしろ。ということでした。

今回はそんな無碍な答えに「漫画原作者になりたい」という気持ちをボッキリ折られた人は置いておいて、実際のところ「漫画原作者は何を書いて、マンガ家に何を渡しているのか」という点をお伝えしようと思います。

 

iharadaisuke.hatenablog.com

<前回のエントリーはコチラ

 1・「漫画原作者のなり方」追記

1-1:もうひとつあった「漫画原作者」への道

前回のエントリーでひとつ、書き漏らしがありました。
「小説家になる」
「マンガ家になる」/「コンビマンガ家になる」
以外に「漫画原作者になる方法」、その3つ目の手段があります。それは……

1-2:“その道のプロ”になれ

マンガ以外の、何かのプロになりましょう。

例えば『マンガで分かる心療内科』(原作・ゆうきゆう/作画・ソウ)。

原作のゆうきゆう先生は、いくつものクリニックを抱えるガチのお医者さんです。
そんな本業の傍ら、『マンガで分かる心療内科』の原作者として活躍しているのは、皆さんご存知ですよね。

ゆうきゆう先生には東京大学漫画研究会会長をつとめていたという過去があるそうで、素養がもともとあった事もありますが、原作は「ネーム」で提供していると聞きます。

実際の絵こそソウ先生が描くものの、ゆうきゆう先生ご本人はTwitter上でソウさんが描いたマンガやイラストを投稿、ご自身も「マンガ家」を名乗っていますが、本業あってこその作品やネタ。

この「本業」の部分が大事で、特に青年マンガにおいては、社会の実情や気づかれていない業界の裏側……絵だけでなく、ストーリーの背景となる「リアル」な描写を要求されます。

もしあなたが何かのプロとして、その業界の人間しか知り得ない「リアル」を持っているなら、それは「作家」としての強みです。ぜひマンガの原作として活かして欲しい! と編集者に喜ばれ、その「ジャンルもの」の原作者になれる可能性は高いです。

ただ、じゃあどんな「原作」を書けばいいのか。それがわからないですよね。ここからが今回の本題です。

2・「マンガの原作」とは何か

2-1:プロット原作

これは話の「あらすじ」を書いて、作画のマンガ家さんに渡すもの。

「あらすじ」を元にマンガ家さんはネームを構成し、作画をする。

原作が「あらすじ」である以上、そこにマンガ家が肉付けする必要があり、マンガ家にとってはその自由度は高いです。
逆に原作者から見れば、その「肉付け」された部分を次回からストーリーに盛り込む必要があり、展開のバリエーションは無限に広がるでしょう。

2-2:小説原作

文字通り、小説の形で提供されるマンガの原作です。
ラノベ原作マンガなどがこれにあたりますが、こちらも「小説」「マンガ」の表現方法の違いにより、マンガ家に託される自由度は高めかもしれません。

過去においては、梶原一騎先生は小説タイプの原作を書いていたと聞きます。
あなたが「小説家」でなくても、小説のように書かれた物語が原作として使われる。それでも「小説原作」になるでしょう。

2-3:脚本原作

映画やドラマの脚本のように書かれたマンガ原作です。
本業が脚本家の方のマンガ原作に多いタイプ。小池一夫先生も確かこのタイプだったような。

ご本人が脚本を書いた『子連れ狼』の映画版もありますし、映像脚本との親和性も高いと思われますが、その脚本はかなりマンガ作画家に向けての演出方面での指示も多かったはずです。


「脚本」のためセリフと状況説明の書き分けが必要ですが、特に映像脚本を書いている方は、撮影現場の「演出家」の仕事のためにソリッドなものを書きますよね。そこにマンガ家は「演出」代わりのネーム構成をする必要があり、その解釈について双方で違いが出ることがあります。

2-4:ネーム原作

これは、マンガのネームで渡されるマンガ原作です。
マンガ家はネームを考える必要がなく、単にその構成に基づいた作画を進めればOK。
ネームが苦手なマンガ家にはありがたい原作ですが、ネーム構成が出来るマンガ家にとっては、自由度が狭まり、単に「絵を描くマシーン」になることを要求されるもの。

自分の好きな構図、描きたい絵、逆に描きたくない構図や絵も描く必要があり、その点ストレスになる事もあるでしょう。

ただし、マンガ家の裁量によって構図やセリフも変えていいというネーム原作もあります。『DEATH NOTE』『バクマン。』の原作、大場つぐみ先生がこのタイプで、『DEATH NOTE』のコミックスでは、大場つぐみ先生のネームを元に、作画の小畑健先生が改めてネームにおこしているその「違い」が収録されて……ましたよね、確か?w

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<上が私の描くネーム原作、下が作画が入った状態です。ほぼそのまま描いてもらってるのがわかりますね>

2-5:猪原式シナリオ原作

そして私の基本的な原作スタイルがこちら。
基本はシナリオタイプですが、私の書くシナリオには、以下のルールがあります。

1、「■○、○」の数字はページの目安(見開き単位)である。
2、「(一行空き)」で囲まれたパラグラフが1コマの目安である。
3、ト書き行頭「――」以下は擬音である。
4、「(オフ)」と書かれたセリフは話者がコマ内にいないことを表す。
5、「v」はハートマークの代用である。

現物を画像で見てもらいましょう。

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これは『ガンロック』(作画・横島一)のシナリオの一部です。
漫画雑誌やコミックスで見られる場合を想定した、見開き2ページにあたる文章を「■」で区切っています。
さらに「一行空き」で「1コマ」の情報を整理。
つまりこの書き方は、「6、7ページの見開き2ページは、8コマで構成する」ネームの目安を提示している、ということです。

セリフと状況に加え、擬音や、場合によってはキャラの配置や、カメラ位置の構図の指定まで入れていることから、言ってみれば「シナリオ以上、ネーム未満」のマンガ原作シナリオ。

これは、マンガを実際描いて、ネームも描いていた「マンガ家」経験があるからこそのシナリオスタイルで、その点、前エントリーの「マンガ家になるのが漫画原作者への近道」――私・猪原賽「自身の経歴」ゆえに書けるものです。

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実際、横島一さんが描かれたマンガは、このような見開きとなりました。

多少シナリオと違いがありますが、そのあたりも私の想定のうち。

私は「(コンビ)マンガ家」だったゆえに、シナリオからネームにする際、どうしてもそのまま描けない部分や、ネームの絵として描いて初めてわかる「より良い演出、構成」があることがわかっているからです。

それはどうしても、文字主体のシナリオと、絵主体のマンガの違いに由来するものなのですが……それはまた次のエントリーで詳しくお話しようと思います。

ガンロック 1 (少年チャンピオン・コミックス)

ガンロック 1 (少年チャンピオン・コミックス)

 

 3・<THE TEMAE-MISO>猪原の原作スタイル

以上、主なマンガ原作のスタイル(書式)についてお伝えしました。

さて、漫画原作者志望の方がこのエントリーを見ているのならば、あなたにはどのスタイルが合っているでしょうか。
マンガ家の方が見ているのならば、どのスタイルの原作が欲しいでしょうか。

それこそ答えは、千差万別。そこにマッチするマンガ家と原作者の出会いがあれば良いのですが、ただひとつ言っておきたいのは、超手前味噌ですが「猪原式シナリオ原作」は、マンガ家さんに大変好評です。

それは見開きの目安がある上に、あくまでそれは「目安」であり、私は、私の意図したセリフや構図が改変される事を厭わないからです。

また、私は逆に「小説原作」「脚本原作」を書きません。

同じ文字なら「猪原式シナリオ」だろうと「脚本」だろうと「小説」だろうとイケるだろう、と思うのは早計ですよ。そこには、着地点の「メディア」が違うという事が関係しているのです。

上の項目での「文字主体のシナリオと、絵主体のマンガの違い」と共に、そのあたりを次エントリーでお話したいと思います。

iharadaisuke.hatenablog.com

<続きはコチラ

3-1:私の「漫画原作シナリオ集(電書版)」販売中です 

漫画原作のゲンバ (上)

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漫画原作のゲンバ (下)

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3-2:言及した本

マンガで分かる心療内科 1 (ヤングキングコミックス)

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