漫画原作者 猪原賽BLOG

「学園ノイズ」「悪徒」「放課後カタストロフィ」の原作者/ブロガーが告知したり漫画の作り方、関連ニュースをお伝えします

マンガ家・漫画原作者はネタに詰まった時どうするのか

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漫画原作者の猪原賽(@iharadaisuke)ですこんにちは。
先日覆面マンガ家・今木商事先生のブログエントリーで、「アイデアが出なくて困った時の脱出方法」というものがありました。それを受け、私・猪原賽ならどうするか……というものを振り返り、このところよくある経験と、私自身の脱出法はこうだ、というものを今回書いていきたいと思います。

imaking.hatenablog.com

 ネタに詰まった時、漫画原作者・猪原賽は何をするのか

マンガ家(漫画原作者)は別にすごくない

マンガ(の原作)を書けるなんてすごいですね、と言われることが多々ある。異業種の人間と触れ合うようになったここ数年、名刺交換のたびにそんな言葉を聞く。
どうやって話を考えるんですか。創造力がすごいんですね。物語を紡ぐなんて考えられない。
いやいや、ちょっと待ってくださいよ。私にしたら、あなた達のほうがすごいんですよ。
私はエアコンの修繕は出来ないし、デザインは出来ないし、プログラム書けないし、サイトの構築だって出来ない。
会社を経営出来ないし、お酒も作れないし、料理も出来ないし、カメラを回すことも出来ないし、経理だって出来ないし、事務も出来ないし、旅行の案内だって出来ないし、外国語もしゃべれないし、楽器も弾けないし、役者も出来ないし、クルマの運転だって出来ないし、誰かの病気を治すことも出来ない。

f:id:iharadaisuke:20151224120521j:plain僕はただ、子どもの頃から、アタマの中に言葉を溜め込んで来ただけ。マンガで漢字を覚え、人としての振る舞い方を学び、マンガや小説を読んではココロを震わし、いつかそんな感情を他人にも持ってもらいたい。
僕は子どもの頃から41歳目前の今になるまで、毎日のように“夢想”をし続けているだけ。そんなことより、きちんと人の役に立つため、社会のため、様々なスキルを持ってるあなた達のほうが、どれだけすごいか――

僕がうかがい知れない、僕がぜったい出来ないあなた達の「仕事」についてスキルについて、僕は話を聞く。それがいつか僕の仕事に繋がる。僕がすごいんじゃなくて、あなた達がすごい、というわけだ。

「趣味は人間観察です」なんて、中二病もいいところのセリフだけど、ひとり飲みに入った居酒屋で入ってくる酔客の話を聞いているだけで面白い。満員電車の中で会話しているカップルの会話を聞いているだけで面白い。タバコを吸いたいだけに入った喫煙席のある喫茶店で何かの怪しいサークルの勧誘している話が面白い。映画が終わった後口々に見当はずれな感想を言い合っている若者が面白い。

――基本的に、僕はものすごく意地が悪いです。聞いていないようで、実は周囲の会話はだいたい聞いています。どんなに深刻な内容で、身に降りかかったら大変そうな話題でも、手を差し伸べるのではなく単に聞いているだけです。

ネタに困ったらどうするか

僕はまず、TSUTAYAに行って映画のDVDを10本借りて来ます。観たかったけど映画館に行けなかった、準新作や旧作。それを1日か2日で観ます。
本を買います。友人が「面白かったよ」と言っていた本、自分でもタイトルだけ聞いて気になっていたもの。
好きな音楽を聴きます。通常のアルバムより、臨場感のあるライブ盤を。
僕が知り合ったいろんな職業の人達が「何にもしてねえ」と思うような事をして、ただ、ダラダラと過ごします。
映像、絵、言葉、音――そうした「情報」の洪水がアタマに一気に流れ込むと、それまで市井で聞いていた「会話」を巻き込んで、ある時バーン! と異次元合体する。
これが物語の「ひらめき」です。生まれる瞬間です。あとはそのひらめきを、大切に、設定・背景・キャラクター等、人様の前に出しても恥ずかしくないよう、体裁を整えつつ育てるだけです。

f:id:iharadaisuke:20151224120720j:plain私がマンガ家のキャリアを歩み始めた初期、『下町狂い咲きキネマ』(オオシマヒロユキと共著)に収録された「中庭」という作品は、映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を観ている時にフッと降りて来ました。主人公はいつまでも引退しない老人の殺し屋の話です。

ブエナ★ビスタ★ソシアル★クラブ  Film Telecine Version [DVD]

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 『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』はキューバの老ミュージシャン達のドキュメンタリー映画です。明日にも死んでおかしくないミュージシャンが、初めてアメリカの地でライブを行い、また来て演奏したいと呟くシーンが印象的でした。
「中庭」は、そんな「老人」「今も現役で活躍している」というキーワードからポロリと生まれた物語です。

f:id:iharadaisuke:20151224120748j:plain■「中庭」より―老人ホームに住む殺し屋、長谷川

同コミックス収録の読切「What a Wonderful World」は、まだ数回しか商業誌でマンガを掲載していなかった私(達)を見て、知人に「作品が1度でも雑誌に掲載されて良いですね」と言われたことがキッカケで生まれました。「What a Wonderful World」は、小説家としてデビューしたもののその次を書けない主人公が、再びペンを持つまで……のドラマです。私(達)は、雑誌に掲載される事(デビュー)が目的ではなく、今後マンガを描き続けることが目的で、知人の言葉にものすごく違和感を持ったことがキッカケで生まれました。

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■「What a Wonderful World」より―小説家、寺間

ファイリングもされず、アタマの中に封じ込められた、これまで僕が出会って来た人達の様々な言葉が、濁流のような創作物の刺激に、化学変化を起こして突然あらわれる。それが僕の書く物語です。

ネタに詰まったら――そんな時に備え、僕は日々、外に出ます。街にあふれる言葉を、メモを取ることなく、ただ聞いている。それがいつか、物語の一部になるのです。

……ええ、毎晩のようにひとりでふらふら酒を飲みに行く理由づけをしているだけですよ。

下町狂い咲きキネマ

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特定のモデルはそのまま描けない

ちなみに、お互い初対面でご挨拶する人の中には「私をモデルにマンガ描きませんか?」「私の仕事をマンガの設定に活かせませんか?」「私の店を舞台にストーリー書いてください」といったことを気軽におっしゃる方がいます。
確かに、私の周囲は、知らない業種は、面白い人間が多いし、愉快な事件が起こります。ですが、それをそのまま描いて面白いことはありません。

私の飲み友達は、愉快な奴が多いです。常連になってる店の店員さんでも、すごくキャラの濃い人がいたりします。
それをそのままマンガに書けば、きっと面白い。そんなふうに思っている時期が、僕にもありました。ですが、それは間違いです。

試しに、マンガのプロット、キャラの設定を考え、編集者に見せたことがあります。するとどんな反応が返ってきたと思います?

「リアリティがありませんね」

リアルな友達をモデルにそのまま書いているものに、「リアリティがない」……だと!?

「事実は小説よりも奇なり」ということわざがあるように、リアルでそのままの人間は、創作物という枠の中では「奇」――逆にリアリティが失われるのです。
その友人が、環境が面白いと思うのは、そこに入り、彼らと出会うという私(あなた方)自身の前提があるからです。少しずつ話し、仲良くなる過程があって得た面白さ。
もしそれがそのままマンガになるなら、導入部分が長くなって読者はかったるいし、そういう前提を抜きで濃いだけのキャラを登場させても、突飛なだけで読者は面食らう。編集者は、私が面白い人と出会うまでの前提を知らないでプロットを、キャラ表を初見で読む。私にとってリアルなキャラに「リアリティがない」と言うのも当然なわけです。

ただしこれまでの話は企画段階での話

ちなみにこれらは、私が主に手がけているストーリーものの企画段階の話です。一度動き出した(連載が進んでいる)作品であれば、ほとんど詰まる事はありません。その話はまたの機会に。

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