漫画原作者 猪原賽BLOG

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マンガを描く時は「雑誌で一番印象的なコマ」を意識しよう!―「面白い/つまらない」だけでは済まないアンケート項目にビックリ

f:id:iharadaisuke:20160302131622j:plain漫画原作者の猪原賽(@iharadaisuke)ですこんにちは。
ふと漫画雑誌「ビッグコミック・スペリオール」の読者アンケート項目を見て、戦慄すると同時に\ピッコーン/と来てしまいました。見てください、この項目。

「印象に残ったコマ」に選ばれることを意識したいマンガ作り

 「面白い・つまらない」だけじゃない、スペリオールのアンケート

どの漫画雑誌でも、アンケートと言えば「面白い作品」「つまらない作品」を読者に選ばせる項目があります。
アンケート至上主義、と聞けばジャンプをまず思い出しますが、「面白い・つまらない」の選択肢は、だいたいどんな漫画雑誌のアンケートでもありますよね。
それがどの程度、連載作品の“命”の長さに関係あるかは、その雑誌次第ですが、ビッグコミック・スペリオールの他のアンケート項目を見て、私はちょっと戦慄しました。こういう“判断基準”もアリか……と。それが……

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今号でいちばん印象に残ったコマ」。

マンガ家は、まず見開き単位で印象的なコマをどこかに配置します。そして約20ページの1話の中に、ここぞというところにキメゴマを配置します。(最終盤の見開き大ゴマ、というのが常套手段ですね。)
ですがスペリオール誌の場合は、自分の作品の中でのキメゴマをキメて、満足してはいられないのです。

雑誌に掲載されている作品すべての中から、読者が「これだ」という、たった1コマの印象的なコマが投票される。

「面白い/つまらない」票で連載(掲載)作品ごとのレースが行われているだけでなく、読者がグッと来た、たった1コマに優劣を決めるレースがある。これ、怖いですよ。……と同時に、雑誌というメディアに、多くの作品が載っているからこそ、そのたった1コマの勝負が作品の未来を決めるかもしれないのです。

ちなみに、今手元にある他の漫画雑誌のアンケートを見てみたところ、週刊少年ジャンプ、週刊少年サンデー、週刊少年チャンピオン、月刊ヒーローズのアンケートには、この「印象的なコマ」の項目はありませんでした。
それどころか、スペリオールの姉妹誌、ビッグコミック・スピリッツにもこの項目は無い。

つまり「今号でもっとも印象的だったコマ」を選ばせるというアンケートは、ビッグコミック・スペリオール独自の作品判断項目、ということになります。

でも、これ、実はすごくマンガ作りに大事なポイント。

ホラーマンガで例えると

ホラーマンガで例えるとわかりやすいでしょう。
ページをめくって、見開きでドーンと、ものすごく読者の恐怖感を煽るコマを描く。すると読者は「ビクッ」と驚いて、場合によっては雑誌を放り投げるかもしれません。
それほどに読者にとっては、印象的なコマというわけです。
こんな経験があればその読者は、読んだそのマンガを忘れることはありません。
一生のトラウマになるかもしれませんw
その感情が良かれ悪しかれ、「もっとも印象的なコマ」としてその読者の心に刻まれることでしょう。マンガにとってそんな読者の記憶に刻まれること、それがマンガの幸せにほかありません。

TVでだったか、何でだったかは忘れましたが、ホラー嫌いな人が『地獄先生ぬ~べ~』のコミックスを持っていて、恐ろしい絵が潜んでいるページはホチキスで留めていると。そんなエピソードを聞いたことがあります。

そこまでしてでも、ホラー嫌いなのに、『ぬ~べ~』のコミックスは持っている。この矛盾。ちょっとおもしろいですよね。

地獄先生ぬ〜べ〜NEO 1 (ジャンプコミックス)

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小池一夫メソッド――裸体は読者の目に留まる

かつて、漫画原作者の小池一夫先生はこう言いました。

「とにかく、キャラは裸にしろ」裸体は人間の本能に訴えかけるビジュアルです。興味なさげに雑誌をパラパラめくっている読者が、「おっ」とそのページを戻って開き、どんな絵か、何のマンガか確認する。その“スイッチ”になるから「とにかく、キャラは裸にしろ」それが小池一夫メソッドのひとつ。

小池一夫先生のマンガ作品を読んでいる人なら、キャラクターが無意味にハダカになる*1シーンを数多く思い出せますよね。

 もちろんそれは、全編ハダカでガッツリエロシーンを入れろ、という意味ではありません。ここぞという時に、何の理由にせよ、全裸になる。
身も心もハダカの状態になるという意味付けでも、武器を帯びていないという証明としてでもいいんです。ハダカというビジュアルが、読者の目を引き付けるのは人間の本能w

クライングフリーマン 6

クライングフリーマン 6

 

“印象的なコマ”が読者を作品の虜にする

ちょっと話がズレましたw

マンガを始め、どんな創作メディアでも、読者や視聴者の“感情”に訴えかけるものが、あとあとその読者の人生に影響を与えたり、思い出と共にずっと生きる。
たった1コマの、絵とセリフが、読者の人生の指針になることだってある。
何の感情も揺さぶらない、なんでもない平坦なマンガだと、その場で忘れ去られ、面白いもつまらないもない“空気”作品になってしまう。

そこまでの影響がないにしても、それまで作品を知らなかった人が、雑誌をパラパラめくって、ふと目についた1コマがキッカケで「読んでみるか」と読者のひとりに仲間入り。そんな体験、マンガを読んでる人には必ずあることですよね。

「印象的なコマ」≒キメゴマは、マンガ作りの中でとても大切なことですが、さらに「雑誌の中で一番印象的」なコマ足りえるか、他の作品・先生と戦えるか。なんの気なしに雑誌を手にとった読者が、「おっ」と気付くくらい自己主張しているコマになっているか。
そこまで気を配って丁寧に演出し、描写できるかが、連載延命の鍵を握っているかもしれません。

その点私は、ちょっと自分の作品の内々にこもってばかりで、他の作家さんと比べて……雑誌で一番のキメゴマ足りえるか!? という問いは自分に持ってなかったかもしれません。
(今回のエントリーはそんな反省も込めて。)

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そんな日々反省、日々努力の漫画原作者・猪原賽ですが、キャリアは16年目に突入!
業界に長くいると見えてくるイロイロを語るKindle本など出しています。

漫画原作者は一体「何」を書いているのか

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 『学園ノイズ』『悪徒-ACT-』『放課後カタストロフィ』などを手がけマンガの原作だけで15年間以上生き抜いている著者が、マンガ業界で学んだノウハウを伝授。「マンガの原作」とは何か、どんな「原作」を書けばよいのか。なかなか表に出て来ない「マンガの原作」の実作例や心構え、初心者がおちいりやすい間違いなど、業界体験談をまじえつつ、わかりやすく解説。【99円

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*1:一応意味付けしているけど、状況的には意味不明なハダカ、という意味。