漫画原作者の猪原賽(@iharadaisuke)ですこんにちは。
昨日わたくしの過去作であるところの『悪徒-ACT-』をTwitterでエゴサーチしていたところ、このコマに対する言及を発見しました。
そんな話題から、「マンガを描くこと」を仕事とするプロマンガ家のつとめるべきは、作画スピードか、絵へのコダワリか。そしてそれを知る経験のできないマンガ家志望者は、その姿勢やテクニックをどうやったら学べるのか――というお話です。ちょっとお付き合いください。
プロマンガ家は“スピード”が大事
【『悪徒-ACT-』に潜ませた名作マンガへのオマージュ】
皆さん、上掲の拙作『悪徒-ACT-』14話のコマには、過去の名作マンガ(アニメ)へのオマージュが隠されています。おわかりでしょうか? さっそくですが答えは……
悪徒14話の元ネタ見れて嬉しいよ pic.twitter.com/z9xphOyLrT
— FLOW HEARTS (@THE_FLOW_HEARTS) 2016年10月16日
こちらの呟きはAbemaTVで放送されているアニメ『ゲームセンターあらし』(第11話・やったぜ!!真空ハリケーン撃ち)に対する言及。あらしにあやかり、ゲーム道場山嵐を運営する山嵐大作の登場する回。
つまり私は『ゲームセンターあらし』へのリスペクトとして、「山」の字を小さく書いた「ゲームパーク山嵐」の看板を描いてくれと、当時作画の横島一さんに指定していたのです。
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【とあるマンガアシスタントの思い出話を聞いた】
さて、そこでふと思い出した、私の昔話。
まだ20代の頃、とあるマンガ家・マンガアシスタント経験者と出会いました。会って話したことは数回限りですが、彼はかつて、すがやみつる先生のアシスタントの経験があり、『ゲームセンターあらし』が大人気で月産ページ数100枚以上の時代に手伝っていたそうです。(あるいはその頃に何度か手伝いに行っただけ、だったかもしれません。)彼が言うには……
アニメじゃなくてマンガの話だけど、「ゲームセンターあらし」にヘルプでアシ入ったことある人に聞いた話。綺麗に仕上げようとトーン削ってたら先生に「削ってたら原稿上がんないだろ!貼るだけでいいんだ!」と怒られたそうな。昔からコロコロさんは人気マンガの月産ページ数すごいんだ
— 猪原賽【新連載準備中】 (@iharadaisuke) 2016年10月17日
このエピソードは続きがありまして、その方はすがや先生に、
「そんなとこ細かく削っても印刷出ないから、ムダな作業していると進行が遅れる」
的なことを言われたそうで。まだ(彼が)自分の作品が雑誌に載らないアシスタント時代。丁寧に仕上げようとした部分は、それが紙に印刷されたら反映されない、読者にはまったく伝わらない努力。そのさじ加減を知ることが出来た……というプロマンガの現場あるある、いい話のひとつだったんですね。
皆さんも尊敬するマンガ家の生原稿を展覧会などで見る機会があったと思いますが、その時、原稿どうでした? 一部の偏執狂アーティスト的な先生はともかく、たいていは「思ったより汚い……」と思うことが多いと思います。
ベタにムラがある、重ねたトーンがけっこう乱雑、ホワイトが厚い……等々。
近頃話題のNHKの番組『浦沢直樹の漫勉』の過去エピソードで言えば、藤田和日郎先生のホワイトの駆使ぶりと、萩尾望都先生の精緻なペン裁きくらい、マンガ家の生原稿は千差万別。ですが、印刷されれば、生原稿ほどの差は感じられません。
【すがやみつる先生から直接反応いただいた】
それを裏付けるように、当のご本人・すがやみつる先生からTwitterの引用RTをいただきました。
そんなことで怒ったかどうか記憶にありませんが(自分に都合の悪いことは忘れる便利な性格なので(笑))、編集者の経験があり、印刷の知識もあったので、印刷に出ないムダなことはしないように心がけていました。 https://t.co/TbWnYGEyRT
— すがやみつる (@msugaya) 2016年10月17日
ここからすがや先生は、やればできる、重ね貼りも削りもバリバリできるよ、ということを実例をあげて呟いてらっしゃいました。ただ、『ゲームセンターあらし』という作品、コロコロという雑誌のカラー的に、特にシンプルな仕上げをアシスタントさんにお願いしていたのだと。
【プロマンガ家は“締切”が大事】
ここで、数日前に話題になったマンガ業界ニュースをひとつ差し挟みます。
「史上最大の崖っぷちに追い込まれております」―― コミックビームが突然の「緊急事態宣言」 漫画雑誌はこの先生きのこれるのか (2/3) - ねとらぼ
これに関しては他にメインとして扱わねばならないテーマが主題となっていますが、私が今回注目したいのは、こちら(▼)の言葉。
雑誌って「月に何ページ描かなきゃいけない」っていう楔(くさび)なんですよ。まあ、それがないと人間、描かないよね(笑)。締め切りなしで漫画描ける人ってよっぽどよ。だからみんな雑誌やめれないの。
毎週・毎月・隔月……発刊ペースこそあれど、漫画雑誌は定期的な刊行物。マンガ家は連載作品を読者に届けるために、どうしても締切を守り、定期的な連載をしなくてはなりません。
すがやみつる先生も「印刷に出ないムダはするな」と自らにもアシスタントさん達にも厳命し、守って来た締切。
それは連載漫画を、定期的に、読者に届けるため。
でもマンガ家は、絵を描く人です。納得のクオリティじゃないと出せない! というアーティスト気質と、締切に間に合わせなければならない、という仕事人気質がせめぎ合う。
その着地点が「印刷したら出るもの、出ないもの」というさじ加減なんじゃないかと思うんですよ。このペンの抜きがイマイチ。だけどもっとキレイに描いたとしても、印刷されると結局潰れてしまう。そんな毎週・毎月の経験――締切との戦い――が、連載マンガ家のスピードとクオロティを高めていくのではと。
【マンガ家志望者はどうすればいい?】
じゃあ、雑誌掲載経験のない新人やマンガ家志望者はどうすればいい? それはもう、実践するしかないでしょう。
どんな形で印刷されるかわからない原稿を、自分のコダワリをもって緻密に描き込むよりも、プロの現場でアシスタントとして働くのが、その「さじ加減」を知る一番近道なんじゃないかと。
残念ながら、上記のエピソードを提供してくれたすがや先生のアシスタント経験者の方は、音信不通になってしまい、今なにをされているかは知りません。が、アシスタントになれば、先生のマンガ作品の中で、自分の仕事が雑誌に掲載されるのは確実。こう印刷されるんだ、ということを経験できます。そもそも週刊や月刊で連載を持つプロマンガ家の現場で働け、そんなさじ加減のノウハウを教えてもらえることは、すがや先生の証言でおわかりでしょう。
マンガ家への近道は、アシスタントにあり。ですよ。
【ちなみにデジタルは?】
今回は「トーンの削り」にフィーチャーしてお話しましたので、「アナログ時代の話で、デジタル関係ないじゃん」と言う人もいると思いますが、デジタルも技術が違えど同じです。
結局のところ、「締切を守るためには、どう作画したら能率的なのか」というテクニックを、週刊・月刊の現場で実践している人(プロ連載マンガ家)に教えてもらえるという意味においては、アシスタントに入るのが一番近道なんですから。
ただし、在宅でリモートワーキングになっている現場だとしたら……ちょっと今回の話とはズレますかねw
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