先日「マンガ家・漫画原作者はネタに詰まった時どうするのか」というエントリーをアップしました。そこで私(の場合)は、あくまで企画段階のネタ出しの際に……という前提で、その方法をお伝えしましたが、連載が続いてる作品の場合はその限りではない、ネタに詰まることなんてない、という話で放り投げております。さて、その真意についてですが……
MDCミニセミナー「『うしおととら』担当編集者が語る「漫画は読まれてナンボ」」レポート
私が今月中旬に聴講に行ったMDC(マンガディベロッパーズカンファレンス)のミニセミナー「『うしおととら』担当編集者が語る「漫画は読まれてナンボ」」。小学館の重鎮マンガ編集者・武者正昭さんのお話を聞きに行ったわけです。
私は以前このMDCのレポートを、「クリップスタジオPROが安く手に入るってよ!」という情報を投下するのみでお茶を濁していましたが、ちょっとこの「ネタに詰まった時……」の事を考えていて、武者さんのお話を振り返るべきだと思いました。
(参考)− MDC:マンガディベロッパーズカンファレンス
敏腕漫画編集者は持ち込み原稿の“どこ”を見るのか
MDCのこの回、小学館で『うしおととら』始め、多くのヒット作を生み出した編集者・武者正昭さんのお話が聞けるということで、多くの漫画編集者が聴講に訪れていました。
そして聴講者との質疑応答で、「マンガ」というものを面白い、売れる、推せる、と判断するポイント、新人マンガ家の持ち込みにどう対応するべきか、逆にこれから持ち込みをするマンガ家志望者は、どこに気を使うべきか、という話になりました。
編集者は新人のどこに「可能性」を見いだすのか、新人は担当が付くために、原稿のどこに重点を置くべきか――
これが、私の持論である「ストーリーマンガの連載は、ネタに詰まることがない」ということに繋がります。
端的に言えば、武者さん曰く、
「セリフを見る」この一言です。
マンガのセリフに“現れる”もの
最初に断っておきますが、ここから書くものは、武者さんの言葉を聞き、私が噛み砕いて理解したままのことを書くものです。武者さんの言葉そのもののレポートではないことを断っておきます。(当日のメモは大して役に立ちませんでしたしw、もう二週間時間が経って、記憶のみで書くので……)
マンガのセリフは、キャラクターの性格やそこまで生きて来た人生を集約したものです。
例えば「〜だ」「〜です」「〜よ」。語尾ひとつであっても、キャラクターがしっかりかたまっていれば、自ずとそのどれを発するか決まる。
そのキャラクターが発するセリフひとつひとつが、しっかり彼(彼女)の言葉になっているか、それが“しっくり来る”かどうか。
武者さんはたびたび“しっくりする”という表現をしていましたが、逆にしっくりせず「こいつはこんなこと言わないな」という違和感を読者に持たせると、読んでもらえない。作者の中で描きたいキャラクターが固まっていない。マンガが不出来である、というわけです。
画力ではなく、描いている登場人物ひとりひとりが、正しく、彼ら自身の言葉でしゃべっているか。そしてその中に、決めゴマたる印象的なセリフがきちんと決めゴマに配置されているか。武者さんは新人の原稿をそう見る、とおっしゃっていたと思います。
※ちなみにこんなレポートマンガが上がってました
MDCセミナー12/12(土): 『うしおととら』担当編集者が語る「漫画は読まれてナンボ」のアフターレポートマンガ公開です! https://t.co/81iV1Uif0W pic.twitter.com/lJSVGjpGGc
— トキワ荘プロジェクト公式 (@tokiwasopjt) 2015, 12月 28
キャラクターは“勝手に動く”し、“勝手にしゃべる”
この武者さんの説、私にも“しっくり来る”んですよね。マンガを連載していて、シナリオを書いている時、ノリノリで書けている時はすごい勢いでキャラクターがしゃべってくれます。演技をしてくれます。
「キャラクターが勝手に動く」というマンガ家の話を聞いたことないですか?
それに対して「何それ、おまえが書(描)いてんだろ?」とツッコむ人もいますが、マンガのキャラクターは、マンガ家の脳内で創造されたひとつの人格です。彼が、彼女が、どんな性格でどんな人生を送って来たか――そういう「設定」はマンガ家が作りますが、そうして形作られたひとつの人格(キャラクター)は、マンガ家によって与えられたシチュエーションに対して、彼らなりの判断と行動をし始める。
マンガ家の言う「勝手に動く」というのは、マンガ家が創造したキャラクターに命が吹き込まれ、彼らなりの“しっくりした”行動を始めるということ。
武者さんが言う「そのキャラクターがしっくりしたセリフを言っているかどうか」というのは、マンガ家が、そうした命あるキャラクターを描いているかどうか、ということになります。
逆に私が連載マンガのシナリオを書いていて、なかなか筆が進まない時。それは、シチュエーションや設定で描きたいものが優先されており、キャラクターがそれに引きずられ、彼ららしい行動やセリフを制限されてしまっている時です。どこか違和感があり、ギクシャクとした言葉を発し、きっとこいつはこんな事しないし言わないよな……と、私の中で“しっくりしない”状況なのです。
■猪原の中で“しっくり”来た例。『くまがヤン』(漫画・横島一)より。食べ物を粗末にした少年に突然掌底で説教。「食い物大事にしろバカヤロー!!」「おまえが殴ってどうする!?」「え、だって、手加減してパーで……」彼の単純でバカで、強くて、でも愛すべき“キャラクター”が出ていると思う。
マンガ家・漫画原作者はネタに詰まる事はない
「作者<キャラクター」でマンガは転がる
もうおわかりですね? マンガの連載を始めよう、読切を描こうという企画段階で、いろいろ詰まることはあります。それは前回のエントリのように解消します。
が、一度連載が走り始めれば、キャラクターには“命”があり、彼らなりの“言葉”があるのです。
マンガを進めるために、マンガ家・漫画原作者はシチュエーションを与えるだけです。あとはキャラクターが、勝手にそのシチュエーションに合わせて動き、しゃべる。
キャラクターさえかっちり決まっていれば、どんな状況に置いたとしても、するすると話が転がって行く。言ってみれば、作者は自分が作ったキャラクターに逆に助けられ、毎週、毎月、次回へ、次回へ……と話を進められるのです。
……時に彼らは勝手に動きすぎ、作者を「次どうするんだこれ」と悩ませたりするわけですが、キャラクターが今後どう動きたがっているのか、どう助かりたいのか、どう解決したいのか。マンガの連載において作者はやっぱりキャラクターに引っ張られ、その糸口を探してあげるだけ。だから「詰まる」ことなどありえないのです。
ま、これはあくまで連載ストーリーマンガに限る話で、毎回読切連作のオムニバスや、ギャグマンガ等になると、まず彼らキャラクターを置くシチュエーションを数多く考えねばならないので、その点においては「詰まる」ことはあるかもしれませんw
とか言いながら自らを振り返ると…
先日も、来年に向けた新作の準備で担当編集者と話をしていると、「猪原さん、ブログとか書いてるヒマあったらキャラクターのこと考えてください」と怒られました。
こんなご高説垂れ流しつつ、私自身は最高4巻という短命連載ばかりの作家です。
マンガのエピソードに描かれなくてもいい、描かれないぐらいでいい。でも彼らが生まれてからここ(マンガの冒頭)に来るまでどんな人生を送って来たのか、それこそ昨日の晩に何を食べたのか。そんなことまで即答出来るくらい、猪原さんの中でキャラクターを掘り下げてください。自分のものにしてください。24時間彼らのこと考えてください。そういうことしないと、設定が面白いだけじゃ売れませんよ。クトゥルフ神話×時代劇、ヤンキー×変身ヒーロー、シャーロック・ホームズ×スチームパンク……飛び道具みたいな設定より、そんな中で彼らがどう自然に動き、魅力的な行動するか。かっこよく見えるか、かわいく見えるか、悪人に見えるか……読者が求めているのはそこです。
……あ、うん。そうね……ゴメンね……。というのを、武者さんのMDCでの話や、先日のエントリーを書いていて思い出した、という自省の意味も込めてお伝えするエントリーでした。
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