(画像は(株)Jコミの中の人。よりキャプチャ)
『学園ノイズ』でお世話になっているJコミの赤松健先生が、すごいプロジェクトを発表しましたね。
「Jコミで印刷できるってよ」システム(β)・・・この世に存在しないはずの単行本を、あなたの手元に一冊からお届け! - (株)Jコミの中の人
もちろんコレのことです。
そのサービス内容はリンク先で参照していただくことにして、実際『学園ノイズ』をJコミで公開してもらっている作者の一人として、ちょっとこのサービスについて書いておきたいと思いました。
Jコミは絶版コミックスを、いつでも無料で読めるようにする絶版漫画図書館を標榜していますよね。
ですがそのサービス内容はWeb、スマホ、タブレット等のWebサービス、つまり電子書籍として無料公開している形です。
無料で、多くの方に読んでもらえる代わりに広告収入が作者に還元されるという、
有料ではない、読者の財布が痛まない、電子書籍の新しい(現代的な?)ビジネスモデルだと思います。
正直、Jコミで配信中の『学園ノイズ』は、その閲覧数が実際のコミックスの発行部数に迫る勢いです。
それは多分に「無料であること」、「電書であること」がその閲覧数を伸ばしているには違いないわけで。
まだ実際に『学園ノイズ』の広告収入料が確定していないので、いったいどれだけ今回のJコミ配信によって我々が収入を得るのか不明な部分ではありますが、その額は微々たるものだと思ってます。が、
一度原稿料・印税として収入を得ている以上、絶版のままのコミックスが現代に蘇って多くの読者を再び得られる。まだまだ現役として新しい読者を迎えられる。
そうした作品そのものの存在を知らしめる意味で、収入は二の次で、なんて思いは強いです。
収入は、きっと電子書籍サービスとしてのJコミがもっと認知され、もっと作品が増え、読者が多くなることで、じりじりと、広告収入がお小遣い程度に増えて行くんじゃないかなあw と思ってたわけですが。
まさか、Jコミ掲載作品を読者に紙の単行本として届けるサービスを始めるとは!
出版社からある意味絶版という烙印を押された作品を救済する「電子書籍サービスとしてのJコミ」が、
未単行本化作品、続刊が出なかった作品を「紙媒体として提供するサービスをするJコミ」としてサイクル(紙→電子→紙)を作るとは思いませんでした。
赤松健先生は先日からこのサービスをリリースすることを予告していて、
「2巻が出なかった作品を救済する」というテーマだけを先に伝えてました。
それを見た時は、続きをJコミで掲載するんじゃないか、と、今考えれば何の驚きもない予想をしていたのですが、その予想を上回る画期的なサービスです。
かつてまだ「ケータイまんが王国」で『B.Y.C.〜裏庭街〜』が連載中の頃。
私はこのケータイコミックをコミックスにするための営業の一環として、デジタルカメラで撮った写真をアルバム印刷するサービスを使って、自分だけのコミックスを作ったことがあります。
これです。『B.Y.C.』はフルカラーコミックだったので、写真がアルバム化出来るんだからカラーコミックでもイケるだろうと踏み、実際可能だったわけですが、当時このサービスはけっこうな割高でした。
今でこそTolotなんていう格安の写真アルバム印刷サービスがありますが、
それでもページ数は少なく、規定のページ数があり、当然カラーの値段なわけです。
それが、白黒のコミックスで、ページ数に応じた値段となり、
作者本人個人の満足のためでなく、
コミックスを欲しいと思っていた読者が買うことが出来るのであれば。
「Jコミで印刷できるってよ」システムが正式に稼働すれば、
マンガ業界の革命的な「Web→紙」連動サービスになることは確実です。
Jコミは基本的に絶版コミックスを扱うスタンス。それがマンガ業界の色んな事情で、
- 1巻しか出なかった
- 単行本化されなかった
作品群をも扱うようになるとすれば、それは単純に「電子書籍」でくくれない、新しいメディアの登場と言っても過言ではないかもしれません。
余談ですが、私はデジタルというものをあんまり信用していません。
それはアナログ人間の新しい時代へのひがみではなく、
例えば自分の父親や祖父の姿、そしてそれより昔の世俗を伝える「写真」を今も見ることが出来るのはそれがアナログ技術だからであり、デジカメで撮った<現代>を、デジタルデータとして保存することが果たして<未来>にその姿を届けられるか、それに疑問を持っているということです。
10年前のCD-Rに保存した写真が既に読み込めないというトラブルは数多くありますし、インクジェットプリンタで印刷した写真なんて数年で色褪せるわけです。
私は自分で撮った写真のうち、本当に気に入ったものは上記『B.Y.C.』を印刷したサービス的なものを利用し、紙媒体として印刷して保存しています。
デジタルでHDやメディアやクラウドに保存しているものは、ある程度「消えてもいいや」という覚悟を持って保存しています。
もし家が火事になったら、結局残るのはクラウドデータという笑い話になるかもしれませんがw
同様に、マンガを発表する場所として、電子書籍・Webがメインストリームになると予見されても、それでも紙媒体での発表にこだわりたい気持ちは、そういった部分が大きいんですよ。
『21世紀番長』という短期連載マンガをかつて俺とオオシマヒロユキはしてました。
これ、コミックス化してないわけですよ。
周囲に「賽の目記ブックス」で自分でKindle出版すれば? とか言われたことも多いんですが、まだまだ紙のコミックス化するアテが無いわけではないので、ずっと寝かされたままの幻の原稿になってます。
この赤松健先生の発表に「うわ!」と思った私の脳裏に、この『21世紀番長』がよぎったのは事実です。
ですが、この「Jコミで印刷できるってよ」システムに、たったひとつ懸念があるとすれば、私達を含めた、本来単行本化出来ない数字成績しか持たないマイナー作家が、
単行本になる!
印税50%!?
と飛びつくと、痛い目を見るんじゃないかという懸念です。
考えてもみてください。なんでそのマンガは単行本にならなかったのか。
それは確実に「不人気」「アンケート結果最悪」「売り上げが見込めない」だったからです。
それでJコミに掲載して、欲しい人にはこのシステムで紙の本を買ってもらえば!
としたところで、10部や20部しか売れなかった。そんな現実を見てしまうかもしれないんです。
実際に私は、せっかく横島さんがネームを提供してくれたマンガシナリオ集をKindle出版しましたが、思いのほか売れず、かなり凹んでます(笑)
その程度の認知度なんです、私というマイナー作家は。
Twitterやブログでどれだけ読者が過去作品を喜んでくれていても、
Jコミで『学園ノイズ』の無料閲覧数が1万を超えても、
実際「お金をいただく」という段階に数字がまったくついて来ないからこその「未単行本化」原稿の山なんです。
とりあえず今回発表された「Jコミで印刷できるんだってよ」システムは一応β版として、現在Jコミに掲載されている未単行本化作品に限ってのサービス。
そうした未単行本化作品は、たいてい一度は名前を聞いたことのある有名作家さんの作品群や、タイトルだけでも聞いたことのある知名度のあるものばかりです。
また、赤松健先生が言うように、β版成功のあかつきには、
「1巻買って続刊を待ってたのに…」という悲しい思いをしたことのある読者様向けの新サービスでもあります。
とある以上、私を含めて未単行本化原稿を抱える名前も作品名もパッとしないマイナー作家はとりあえずここは静観し、有名作家さん・有名作品の「未単行本化原稿シリーズ」が印刷購入できるβ版や、その後に控える「なぜか最終巻が出ないシリーズ」の正式稼働となってどれだけ動くか。その辺りの動向を見守るのが良いような気がします。
しかしまあ、このタイミングで滑り込みJコミ掲載作家になれて本当に良かったと思います。
ある意味当事者として、この注目の「電子書籍」事情を目の当たりにできるのですから。