漫画原作者 猪原賽BLOG

「学園ノイズ」「悪徒」「放課後カタストロフィ」の原作者/ブロガーが告知したり漫画の作り方、関連ニュースをお伝えします

インドネシアに“日本式”マンガ雑誌!?「少年ファイト」のクラウドファウンディングに複雑な現地の出版事情を見た!

f:id:iharadaisuke:20151217122242j:plain

海外、インドネシアにも日本の少年マンガスタイルのマンガ雑誌があるのをご存知でしょうか。
Shonen Fight(少年ファイト)」。これは日本人のマンガ編集者が編集長となり、日本のMANGAのスタイルでインドネシアのマンガ家がマンガを連載し、インドネシアの書店で販売(通販)されているマンガ雑誌です。

ですが、これまで4号発行し、現在は今後の続刊を占う資金源調達―クラウドファウンディングを実施中。そこには、現在のインドネシアという国の出版事情が垣間見え……

日本スタイルマンガ雑誌「Shonen Fight」で見えたインドネシアの出版事情

「Shonen Fight(少年ファイト)」とは

f:id:iharadaisuke:20151217122457p:plain

私の友人にフリーのマンガ編集者さんがいます。彼は日本とインドネシアを行き来しており、インドネシアにおいて日本のマンガスタイルのマンガ雑誌を作っています。
そのマンガ誌の名前は、「Shonen Fight(少年ファイト)」。
現地の作家を使いながらも、日本語ロゴまで作っている、まさに日本マンガスタイルのマンガ雑誌です。

f:id:iharadaisuke:20151217122242j:plainこれまで4号まで発刊。カラーページに、白黒のマンガ。

f:id:iharadaisuke:20151217123022j:plain
さらに、グラビアまであるという、まさに日本のマンガのスタイルを継承した、しかし完全にインドネシアにローカライズされた少年マンガ雑誌。

しかし、そんなムーブメントに、インドネシアならではの「出版事情」がからみ、「Shonen Fight」は、現在資金調達のためのクラウドファウンディングを実施中

www.indiegogo.com

リンク先はすべて英語のため、ここからはその友人の許可を得て、彼が日本語で記したFacebookでの投稿をすべて引用いたします。

インドネシアの出版事情と現地のマンガ家の状況

私がインドネシアで作っている少年マンガ誌『Shonen Fight(少年ファイト)』のクラウドファンディング(INDIEGOGO)になります。

英語版のみになりますが、興味のある方はご覧になってみてください。

なぜ今回クラウドファンディングの利用に踏み切ったかというと、
以下のような大きな理由があります。

1. Bookstore commision in Indonesia is too big, right now, its 45-50% for bookstore, 10%for distributors, 10%for govt VAT. that leave us with 30-35% out of 5$ sales price.

インドネシアにも独占禁止法にあたるインドネシア競争法というものがありますが、ほとんど機能していません
したがって上記のように書店が販売手数料45〜50%を持っていきます。そこに流通業者(日本でいうところの取次)が10%、消費税が内税で10%かけられます。
日本円で例えると500円の本が1冊売れると私たちの手元に最大で175円(35%)しか残りません。
書店は50%近い販売手数料を取って何かしてくれるのかというと、ただ置いておくだけです。
採算分岐点が55%弱の本で35%しかバックがない。つまり書店で売れば売るほど赤字になります。なので現状は通販を読者に推奨しています。

2. We are yet to reach our optimal production number. To do that, we have to produce twice more than our current production run.

実売部数がまだ目標の部数に届いていません。
目標を達成するには、現在の刷り部数の2倍以上を発行できるようにならなければなりません。

3. Ebook sales are yet to flourish in Indonesia, for now, we still have to put our money mostly, in printed books.

インドネシアはインターネット環境の充実度が環太平洋諸国の中で下から2番目という低い位置にあります。
そのため、当然のことながら電子書籍は普及しているとは言えず、まだまだハードコピーの販売を主な収入源としなければなりません。
ちなみに2億3,000万人の人口を持つ国でありながら、国内大手の電子書籍書店の会員数は180万人、MAUに至ってはさらに数字が少なくなります。
最近はインターネットの契約料も値下がりはしているようですが、常時40Mbpsで快適に接続できる回線は月額40,000円ほどするとのことです。

4. Lack of promotion. For now, our main promotion channel is social media.

また決定的に我々の雑誌で不足しているのがプロモーションになります。現状Facebook pageやTwitterに依存している形です。

少年ファイトは原稿料が制作費の半分以上を占めるので、今の値段でないとクオリィティを保てません。
聞いた話では、1ページ30rib(300円弱)で描かせている版元もあるとのことです。
私は大手垂直統合型書店(グラメディア)も、ろくにマンガ家に原稿料を払わない他の出版社も認めていません。
ペラくて安い本が多いのは著者に正当な原稿料を払っていないからです。

1食10rib(100円弱)で食事ができる国で5食分の値段というのは、非常識だとは思います。
しかし作家が「マンガで食っていける道」を作るには、今の値段で本を作って売らなければ、これからマンガ家になりたい人に希望を与えることができないのです。

この1年、なんとか自腹でやってきましたが個人レベルでは限界が来てしまいました。
来年からは渡航費用等を省くためインドネシアには行きません。日本からネット経由で指示を出します。
当然日本での仕事も増やせるだけ増やします。
私自身の生活の危機的状況もなんとかしなければなりません。

しかし諦めたくないので、考えられる限りのことをしようと思っています。

さらなるお知恵を貸していただける方がいらっしゃったら、お声がけいただければ幸いです。

(強調筆者)

 これによれば、インドネシアにおいて……

  • 書店は(書籍価格の)45%〜50%を取る
  • 電子書籍は普及していない
  • (他の)版元はマンガ家に正当な報酬を払っていない

というわけで、インドネシアにマンガ文化を根付かせ、マンガ家は夢のある仕事だと知ってもらいたい。その正当な報酬を払うために、出版事情による「本屋で売れれば売れるだけ赤字」を補填する、資金の協力を願えないか――そういうクラウドファウンディングを実施中だと彼は言うのです。

そもそも、インドネシアの人口が日本の人口をゆうに超える2億3,000万人という数字にも驚きましたが、電子化以前に、旧態依然とした出版社と書店の商売のやり方にオドロキです。そんな場所で、日本のスタイルのマンガを根付かせようと、現地の日本スタイルマンガに憧れるマンガ家に夢を与えようとがんばってるんだなー、あの人……

協力者求む!

www.indiegogo.com

もう一度、クラウドファウンディングのページを紹介しておきます。リンク先は英語のサイトで、通貨はドル建てですが、ご興味があれば、ぜひ。
「Shonen Fight」の公式サイトのリンクと、プロモーション動画も置いておきます。

Shonen Fight
http://shonen-fight.com/