漫画原作者の猪原賽(@iharadaisuke)ですこんにちは。今回は9月に発売された漫画指南書『カタルシスプラン「面白いと確信して描ける漫画演出」』(樹崎聖・著)を紹介します。
マンガの“技術”をわかりやすく伝える指南書『カタルシスプラン』がオススメ
【わかりやすい!とプロに評判の漫画指南書】
こちら、ジャンプ作家でもあるマンガ家、樹崎聖先生が9月に発売した、マンガ指南書『カタルシスプラン「面白いと確信して描ける漫画演出」』。遅れ馳せながら10月中旬に購入し、1晩で一気読みしました。
帯にもあるように、そうそうたるプロマンガ家の皆さんが一様に「わかりやすい」「奥義」「こんなにノウハウバラしちゃっていいの!?」と推薦する図書。事実、これからマンガ家になろうとする若者にも、伸び悩む中堅マンガ家*1の方にも、「なるほど」と思えるテクニックやキャラクターメイキングの“肝”が詰まっています。
【『カタルシスプラン』のパワーワード】
詳しい内容は買って読むことをオススメしますが、章立てを紹介すると……
- 魅力で考えるキャラクター論
- 自分を活かすキャラクター創作
- キャラに入り込ませるコマ割り
などなど。長年第一線で活躍する一方、打ち切りの憂き目に遭った経験もあるプロマンガ家さんだからこその、実例や実体験、そして作家仲間の証言などで、わかりやすく丁寧に論じられています。
特に私が目ウロコだった言葉は、
- 「起承転結」は時代に合わない
- 少年マンガの主人公は成長しない
の2点。
「起承転結が時代に合わない」というのは、4コマ漫画ならいざしらず、長期連載を見越して作られるストーリーマンガに果たして必要か? ほかに別の作り方が必要なんじゃない? という疑問を提示したもので、詳しくは樹崎先生の旧著から語られている概念なのですが、そもそも「起承転結」とは作者側から見た筋立てでしかなく、では読者の側から見た読者の感情の動きに照らした場合は……という話。
(これに関しては、詳しくは『カタルシスプラン 面白いと確信して描ける漫画演出』と同時発売の『10年メシが食える漫画家入門 Renewal 悪魔の脚本 魔法のデッサン』に書かれています。)
また「少年マンガの主人公は成長しない」というのも、最初は「えっ!?」とびっくりします。マンガに限らず物語(ドラマ)というものは、オープニングからエンディングの間にキャラクターが成長し、何かが変わっていないことにはドラマ足りえません。なのに「成長しない」とは……?
これも実際本を手にとって読んでいただきたいのですが、長期連載・国民的マンガとなる作品の例として、『ドラゴンボール』『ONE PIECE』……ブレないバカキャラクターの、アホ強い主人公のポジティブさが挙げられています。確かに悟空もルフィも、「強え奴と戦いてえ!」「海賊王になる!」……最初っから彼らはブレず、シンプルで、成長しません。ですがそんな彼らに触れて脇役達こそが成長する――マンガをドラマたらしめている。これにはなるほどな〜と納得してしまいました。
【プロの持つ“感覚”を“言語化”しているからわかりやすい】
上のパワーワードはほんの一例。その他、マンガを、ストーリーを、キャラクターを描く上で必要な感覚、演出方法が、作例を交えて解説されています。
▲特にコマ割りの部分では、一時期ネット界隈で話題になった「イマージナリーライン」の問題から視線誘導、1コマ中の時間の経過など、文字だけでは伝わらない部分はしっかりと実例でフォロー
正直底辺漫画原作者の私でさえ「知ってた」というテクニックも1から解説されていますが、実はそれは私が手癖で、なんとなくそれがベストだと思ったから感覚的に実践していた、というもので、改めて言語化されてこの本に記されていると、「あー、そうだ、いつも気をつけてること、これだったわ」と気付かされる。逆に何も知らない新人・漫画家志望者から見れば、キャリアを重ねたプロマンガ家が培った“感覚”を読んで知ることが出来るのですから、それはわかりやすいに決まってますよね。
【インプットすべき映画・漫画の例示も多い】
本書を読むと、樹崎聖先生はマンガを描く(アウトプット)だけでなく、これまでも多くの映画やマンガ、創作物をインプットしてきた様子がわかります。
冒頭から例示されている映画やマンガを羅列すれば、チャップリン、スラムダンク、HUNTERXHUNTER、ジェームス・ディーン、クレヨンしんちゃん、おそ松さん……。他にも、富士山さんは思春期、徒然チルドレンなどのここ数年の話題作、さらにはcomico などのWEB漫画にも触れ、樹崎先生が旧作名作から最新の作品まで、きちんと見ている・読んでいることがわかります。そしてそこから学ぶべき点は何なのか示されている。
樹崎先生の語るマンガテクニックの参考になる作品が例示されているのですから、既知であれば「なるほど」と、未見であれば見て読んで参考にしてみようと思える構成がまたわかりやすく、勉強になります。
【“毒”というユーモアもこっそり忍ばせる悪戯心が面白い】
こうしたわかりやすい漫画指南書でありながら、ところどころに「えっ、それここで言っちゃうの!?」という“毒”が仕込まれているのも、本書の楽しみどころです。
「宮○駿監督は□リコン疑惑」「某漫画家は傲慢」「人生を棒に振るほどの性癖の田代○さし」……とは、何も悪口や揶揄で書かれているのではなく、「自分を活かすキャラクター創作」で書かれている、突き抜ける大御所の<例>。恥ずかしがらずに自分をさらけ出すことで国民的な作品を世に出すという強さを語っている箇所です(田代ま○しに関しては、“萌え”の突き抜けた例として挙げられている)。
「何を演じても本人でしかない木○拓哉、トム・ク○ーズ、スタ□ーン」とは、これも悪口ではなく、主役ヒーローを演じられる数少ない“主役俳優”の例として。
真面目に、いいことばかり書いている照れ隠しに、時々“毒吐き”してるんじゃないかと、読んでるこっちがニヤリとしてしまうのは、まるで爆笑問題の漫才を見ているようでもあります。
樹崎聖先生がマンガ家としてのキャリアが長く、付き合っている業界人も多いからこそ、突き抜けた“実例”が多いのでしょう。本書を推薦するプロ漫画家さんは数多いですが、見どころとしてこの点を挙げている方はあまりいらっしゃらないのではないでしょうか(笑)。
【2冊セットでの購入をオススメします】
というわけで、マンガ家志望者にオススメ図書『カタルシスプラン』。Amazonでもランキングが上位になっているようです。なお『10年メシが食える漫画家入門R』と同時発売。取扱書店では2冊が並べて販売されています。
今回は内容端折りますが、後者『10年メシが食える〜』は、ストーリーの作り方を解説する「脚本」パートと、マンガの絵を描くコツを示す「デッサン」の二部構成となっていますので、マンガ家志望者の方は2冊セットで買うことを強くオススメします。
10年メシが食える漫画家入門 Renewal 悪魔の脚本 魔法のデッサン
- 作者: 樹崎聖
- 出版社/メーカー: 幸文堂出版
- 発売日: 2016/09/14
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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【オマケ】
底辺漫画原作者・わたくし猪原賽の電書版業界トーク本・シナリオ集もぜひ。
*1:俺は原作者だけど、まさにこの“伸び悩み”を打壊したい一心で本書を手に取りました。