漫画原作者の猪原賽です。
先日「マンガの原作」について3回に渡ってちょっとエントリーを書いたのですが、業界の友人知人の少ない私であっても、いくつか直接反応いただきました。
今回は、そうした反応を聞いた時、たまたまその方がマンガの編集者だったので、「『マンガ家になる一番カンタンな方法』を聞いてみた」という話です。
マンガ編集者に聞く「マンガ家になる一番カンタンな方法 」
1・「漫画原作者になる方法」を読んだ編集者が来た
先日のエントリーとは、この3つのことです。
特にトップバッターのエントリーは「マンガ原作者になる方法」とタイトルにした為か、非常に興味を持って読んでいただけたようです。
ですが、その結論としては……
- 小説家になれ
- マンガ家になれ
と、取り付く島もない答えをオチに持って来て、反感を持たれたり、そのとおり、とおっしゃっていただけたりしましたね。
特に、マンガの編集者をされている方には、「そのとおりだ」と失笑されましたw
2・編集者から漫画原作者になる例もある
また、その2つ以外にも、「編集者からマンガ原作者に」というコースも実はあるんですよ。
もちろんそれは……

新世紀黙示録MMR Resurrection (講談社コミックス)
- 作者: 石垣ゆうき
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バブル期にマンガを読んでいた方には『MMR』でおなじみのキバヤシさん。
元講談社の編集者で、安童夕馬、青樹佑夜、天樹征丸……様々なペンネームを併用しているマンガ原作者さんですよね。
でも、これはものすごく稀有な例です。
まず、マンガの編集者になることが、マンガ家や小説家になることより難しい。
よく考えてください。学歴が、就活が……というのはもちろん、マンガのみを出版している出版社は少なく、ほとんどが総合出版社。
狭き門をくぐって、晴れて出版社の社員になってみてください。配属先はあなたの希望どおりマンガの編集部となることは、稀です。
オヤジの読む総合週刊誌、若い女性が読む女性誌……そういったマンガ以外の編集部に配属されればまた良いほうで、総務に配属されたとしたら、あなたは会社を辞めますか? そうもいかないのが社会人でしょう?
それよか全然、小説家やマンガ家になるほうが、遥かにカンタンです。あくまで、マンガ編集者になるよりも、ですよ。
そんな狭き門からマンガ編集者になった人が、「猪原さんの言う『漫画原作者になるためには、まず小説家/マンガ家になれ』という話、まさにそうだと思いました」と言います。
そこで私は、ちょっと意地悪な質問しました。
――では、まずマンガ家になるためにはどうしたらいいですかね。
3・マンガ家になる一番カンタンな方法とは!?
3-1:まず結論から
この質問は、もちろん「原作者」への近道のひとつ「マンガ家になること」への答えをその編集さんに移譲したということになります。(マンガの編集さんに、小説家になるためには? を訊いても仕方ないですしw)
その編集さんの答えは……
「アシスタントになればいいと思います」
いろいろその説明をお話いただいたんですが、最近、マンガのアシスタントになりたがる人がいないんだそうです。
投稿、即デビュー! 出来なきゃマンガ家の道を諦める。人の手伝いなんてしているヒマはない。それくらいのスタンスの若者が多いと。
いや、ちょっと待ってくださいよ。という話。
マンガ家になりたければ、マンガのアシスタントが近道なんですよ。なぜだかおわかりですか?
3-2:アシスタントが一番“近道”な理由
改めて、今、マンガ家になりたい人に訊きたい。
自分の作品を今すぐ描きたいのはわかります。でもそれ、とっかかり(持ち込み・投稿)においてはそのとおりでしょうが、もしそれでデビューが決まったら、連載どうします?
一人で描きます? 週刊で? 一人で描きたいので月刊で? 季刊で? 描き上がったら出す?
そんなことが出来るのは、どんなに遅くても作品の続きを待ってくれている固定ファンの多い、一部のマンガ家さんのみです。
マンガ家は週刊で、月刊だとしても4、50ページ描いて、やっと“暮らし”になる職業です。毎週、毎月、多くのページを描いて、少しでも多くの読者の目に止まるよう、露出がないと認知してもらえない。
一人で週刊なんかムリ。だったらどうする? アシスタントさんを雇いますよね。でも、雇ったアシスタントさんに、どう能率的に動いてもらうか。そのノウハウがなければ、連載も続きません。破綻します。
アシスタントの経験があれば、そうしたノウハウが身につくんですよ。しかも、戦場とも言うべき現場で働くことで、自ずと画力も上がり、給料までいただける。
まだ、アシスタントをすることのメリットはあります。
- ライバルがいる(同期や後輩に負けたくない、という自己研鑚に繋がる)
- 編集さんとのつながりが出来る(先生の担当編集さんと顔見知りになることで、持ち込みするプレッシャーが減る。デビューすれば担当になる場合もある)
- 独立後のアシスタント探しも、アシスタント仲間の横のつながりで見つかる可能性もある
そうしたメリットがある上に、上記のように、
- 週刊・月刊で活躍するマンガ家の現場とノウハウを学べる
これは、マンガ家になる近道であると同時に、マンガ家として長く活躍する(デビュー後の初連載、スタートダッシュで失敗しない)ための「実地研修」であることも理解いただけると思います。
4・「自分は下手だから…」と言う若者こそ、アシスタントになって欲しい
最後に、その編集者の方が言っていた、とあるマンガ家の言葉を書いておきます。
「即戦力で絵が上手いアシ歴の長い人を雇うより、何にも出来ない10代の若者のほうが、仕事がしやすい」
マンガ家は、自分の知っているテクニック、ノウハウを1から吸収してくれる若いスタッフを求めているそうです。
既に他の先生のところのスタイルの出来上がってしまったアシスタントよりも、自分で育てたほうが仕事がやりやすく、また、自分のところからプロになり“卒業”していくことがうれしいと。
この話は、アシ歴の長い方には耳の痛い話でしょうし、異論もあると思いますが、少なくとも今、マンガ家を目指していて、でも自分のテクニックが稚拙であることを自認している若者には、きっと「アシスタントしてみようかな」と思ってもらえる言葉なんじゃないかと思います。
下手だから、プロのクオリティじゃないから……と引っ込み思案で、しかし一人でちまちまとマンガを描いているくらいなら、すぐさまマンガのアシスタントに応募し、現場を学ぶほうが、プロへの道はぐんと近くなりますよ。
さあ、あなたも好きなマンガ雑誌の後ろのほうを見てください。アシスタントを募集している先生がたくさんいると思います。即応募! しない手はないと思いますね。
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